航空小説 読書録

空中戦のシーンを文章で読むと飛行機がどのような状態になっているのか頭の中でイメージし難いですが、飛行機が登場する小説を読むのは好きです。ここではこれまでに読んだ航空小説を感想等と共に紹介しています。

作者別

霧のソレア

著者:緒川怜(光文社 刊)

霧のソレア

爆弾により負傷したB747を女性副操縦士が孤軍奮闘して成田空港に降ろそうとする。それを成田名物の霧と電子戦機EA6Bプラウラーが妨げるという珍しい設定でした。手っ取り早くミサイルで撃墜するのではなく、悲劇的な事故と見せかけるために。

EA6BはAN/ALQ99戦術妨害システムを使って旅客機の全ての通信を使えなくする。また、二機のF-15J戦闘機を相手に電子戦を挑む。Xバンドへのバラージ・ジャミングによりF-15のAN/APG63火器管制レーダーを無力化し、対レーダーミサイルAGM88HARMで攻撃する。

途中、専門的になるがと断りを入れて、ジャンボ機の燃料タンクの仕組みと使い方について解説していたりします。この作品は著者のデビュー作だそうですが、軍事民間ともに航空機や管制に関してよく調べて書かれていると感じました。

迎撃せよ

著者:福田和代(角川書店 刊)

迎撃せよ

2009年、北が衛星と称して発射するミサイルが日本に落下する事態に備えて自衛隊が迎撃の準備をしました。その後も何度か同じような事があり、その度に多くの人が思うのは、自衛隊はミサイルを上手く撃ち落せるのか?です。

この小説ではその自衛隊が運用する弾道ミサイル防衛システムの有効性を証明しようと、元自衛官がテロリストと手を組んで日本にミサイルを撃ち込みます。ただ、弾道ミサイルではなくて、盗んだF-2戦闘機から発射したXASM-3でした。

太平洋側から進入したF-2を笠取山のFPS-3が探知。スクランブル機F-15Jが上がる。しかし、領空侵犯だけでは撃墜出来ない。と、侵犯機がミサイル3発発射。航空自衛隊の自動警戒管制システムが着弾地点を港区と割り出し、市ヶ谷の高射隊に指令をだす。で、PAC-3が迎撃に成功する。BMDシステムが有効に機能したことに満足気な元自衛官。

コストパフォーマンスや員数の観点からイージス艦やPAC-3など迎撃装置の台数に限度があり、日本全土を守るのは不可能という事実や、日本の専守防衛のあり方を考えさせられる本でした。

ベストガイ

著者:麻倉一矢(カドカワノベルズ 刊)

ベストガイ

1990年に公開された織田裕二さん主演の映画「ベストガイ」を小説化した作品です。登場人物の設定等多少異なるようですが話の展開は映画とほぼ同じです。映画の原作者は山口明雄さんです。

BEST GUYとは飛行の技量はもちろん、全人格を含めて超一流と認められたパイロットにのみに送られる称号で、同種の称号であるアーリーバード、トップガンを凌ぐ。舞台となる航空自衛隊千歳基地、201飛行隊でその選考が行われる。争うのは主人公の梶谷英男二尉とトップガンの称号を持つ名高輝司一尉です。

領空侵犯に対応するために上がったこの2人が乗るF-15Jと、二機のSu-27が空中戦を展開する場面がありました。名高機がミサイルロックされるという不利な状況から始まりますが、ベストガイを争う技量を持つペアは機動力あるSu-27に対して形勢を逆転します。

永遠の0(ゼロ)

著者:百田尚樹(太田出版 刊)

永遠の0

終戦から60年経って、戦死した祖父の生きざまを、その孫が調べるという話です。祖父の軍歴は、「宮部久蔵、大正八年生まれ。昭和九年、海軍に入隊。昭和二十年、南西諸島沖で戦死」となっていました。

祖父は凄腕の零戦パイロットでした。終戦の一週間前、彼は十死零生の特攻隊として鹿屋から、250キロ爆弾を抱いた、いわゆる爆戦仕様の零戦二一型で出撃。敵空母 タイコンデロガの甲板に垂直降下で激突した。

この物語は、祖父の戦友たちの戦争体験談で話が繋がっていきます。そのため、世界情勢、戦争に至った背景があまり書き込まれていないこともあって、奥行きの無い薄っぺらい物語に感じます。

翼に息吹を

著者:熊谷達也(角川書店 刊)

翼に息吹を

話の舞台は昭和20年5月から8月にかけての鹿児島・知覧基地。そこから沖縄に向けて飛び立つ特攻機を整備する須崎少尉が主人公です。任務は一機でも多く準備線に着かせる事。学徒出身の彼は大学で内燃機関を専門に勉強していて発動機をいじるのが好きでした。死にかけていたエンジンが息を吹き返す瞬間に喜びを覚える。だがそれは同胞を死地に送り込むことに繋がるという現実との葛藤に苦しむ。

特攻機として整備するのは既に米機とはまともに渡り合えない旧式戦闘機、キ27 九七式戦やキ43 一式戦「隼」、キ61 三式戦「飛燕」に二式複座戦「屠龍」、キ51 九九式襲撃機でした。中でも液冷エンジン搭載の飛燕は燃料噴射装置と過給機の不具合がやっかいなうえに、整備できる兵が少ないことから須崎は寝る時間もない。

ある日、捕獲したグラマンF6Fを検分した須崎は思わずため息を漏らしてしまう。アメリカ本土を遠く離れ、沖縄から飛来したにもかかわらず同機の発動機は美しくて油漏れも無く、潤滑油は淡い黄金色に輝いていた。比べて自分たちは日本本土にいるのに日々整備している機体はボロボロで、廃油同然の汚れきった潤滑油を使っている。これじゃあ、この戦争に勝てるわけがないと実感する。そして、特攻に意味や意義はあるのかと考え始める。

この話はフィクションですが史実に基づくという。搭乗員に注目が集まる特攻ですが、こういう見方もあるということを知ることが出来ました。

ホット・スクランブル 緊急発進

著者:高野裕美子(徳間書店 刊)

ホット・スクランブル

ホット・スクランブルとは防衛庁と三峰重工がハイテク技術の粋を集めて極秘に開発した空中戦シミュレーターです。主人公の辰巳彰一尉はそのマシンによる訓練要員の一人です。

辰巳一尉はミュレーターでF-15Jを飛ばしていて灰色の雲に突入するとなぜか30年後(2036年)の東シナ海上空に転送されてしまう。乗機もF-15JからF-51Jオラクルに替わっている。

オラクルは角を切り落としたような翼に菱形の垂直尾翼。ミサイルも燃料タンクも外装ではなくウェポンベイに収められている。グラスコックピットにヘッドマウントディスプレイを使用し、搭載するレーダーは360度をカバーする全周レーダ。機動性はF-15をはるかに上回る。

30年後の東シナ海は尖閣諸島周辺の原油をめぐって中国と紛争が激化していた。自衛隊と中国軍の戦闘機による空中戦も頻繁に行われていて辰巳一尉も加わる。中国は電波吸収材でコーティングしたステルス戦闘機 光帝Vを開発していた。翼胴体一体型となった平べったいボディで、スルメイカの様と表現している。

光帝Vは空中戦においてオラクルの敵ではない。苦戦を強いられるのはカナード翼を装備した機動性の高いスホーイ47でした。辰巳はアクロバティックなハンマーヘッドで形勢を逆転する。

謀殺の翼747

著者:山田正紀(中公文庫 刊)

謀殺の翼747

羽田を離陸直後、中央航空の803便がハイジャックされた。三十億円相当のダイヤを要求する犯人を乗せ、洋上を次第に陸から遠ざかるボーイング747。だがその背後に、米軍の大型軍用機が迫りつつあった。国家緊急空中指揮機、E-4Bだ。核戦争の勃発により地上司令部が全滅しても、大統領らを乗せて、空中から報復攻撃を命令できる機能をになった機体である。そんなE-4Bがなぜここに?・・・・・

感想

黒幕の目的はE-4Bの奪取。ハイジャックした旅客機とE-4Bをレーダー画面上ですりかえる。E-4Bとなった旅客機はE-4Bが撃墜されたと思わせるために2機のF-16戦闘機に攻撃される。戦闘機パイロットは黒幕によって買収済み。旅客機を操縦していたのはハイジャック犯。ハイジャック犯は黒幕にだまされた。

普通に考えれば戦闘機に攻撃された旅客機は助かるわけが無い。しかし戦闘機が撃墜された。武器も持たない旅客機に。1機は旅客機が投棄した燃料の霧に突っ込んで爆発。それを見たもう1機のパイロットは冷静さを失いミサイルではなく至近距離から機関砲を打ち、旅客機からはがれたフラップに当って死んだ。冷静なハイジャック犯と、油断したのか間抜けな戦闘機パイロット。黒幕の思惑通りにはいかなかった。

全体的によけいな場景説明も少なく話の展開が早い。逆に少なすぎるように思う。E-4Bを奪う目的も具体的に書かれていない。奪ってどうするの?金持ちの道楽か?具体的に書くにはE-4Bに関して詳しく調べる必要があるのでごまかしてあるのかな。

蒼海の零戦

著者:岡本好古(徳間文庫 刊)

蒼海の零戦

『全軍突撃せよ!』 もっとも簡単なト連送<トトト>が発信された。その直後、編隊は真珠湾を左にやりすごし、西南方の岬へ向かった。隊を組み直して、水平爆撃コースに入るのである。七時五十三分、兵曹が歴史的キーを叩いた。<トラトラトラ 我奇襲ニ成功セリ>これこそ、全陸海軍が待ちあぐんでいたサインであった。零戦の活躍と日米海軍の死闘を描く。・・・・・

感想

太平洋戦争の開戦、真珠湾攻撃から、マレー沖海戦、敗戦に向けて転機となったミッドウエイ海戦までを描いた作品。戦艦に代わって主流となった空母と航空機の組合わせによる戦闘の様子を中心に描いている。

活躍する航空機は制空直掩戦闘隊の零戦21型、水平爆撃及び雷撃隊の九七式艦上攻撃機、九九式急降下艦上爆撃機などで、いずれも熟練パイロットの操縦により見事な攻撃を行う。海軍パイロットの中でも最高の滞空時間の記録とずばぬけた熟練度を誇っていた比野史郎少佐が操縦する零戦は『鷲』を思わせるような飛行を行う。ミッドウエイ海戦でもこのすばらしい運動性能と二十ミリ機関砲で敵機を次々と叩き落す。この時期、優秀な日本の零戦とパイロットに立ち向える飛行機は無かったようだ。しかしそのミッドウエイ海戦では大敗。「戦争は人為だ。しかし、神は不用意な成行きをしばしば設ける。台本どうりには行かない。」という南雲長官の思いが的中。

この作品はミッドウエイ海戦で赤城、加賀、蒼竜の三空母が攻撃され喪失したところで終わっている。続編が読みたくなる。広大な太平洋で繰り広げられた戦闘とそれに関わった日本人の様子を知る事ができる。

大反攻 ジェット航空艦隊

著者:副田護(廣済堂文庫 刊)

大反攻 ジェット航空艦隊

1944年に日本軍がジェット機を実戦に投入したことで大反抗を開始する、という架空戦記です。

登場するのは3機種、艦上双発攻撃機「橘花(コードネーム;サタン)」、艦上戦闘機「震電改(コードネーム;デヴィル)」、大型陸上攻撃機「連山改(コードネーム:ネプチューン)」です。

長年、独自にジェットエンジンの開発を進めていた海軍航空技術廠と中島飛行機が、メッサーシュミットMe262とそのエンジンBMW003AとJUMO004Bの設計図を手に入れたことで、短い開発期間で橘花を作り上げた。震電改と連山改は、共に優秀な機体ながらパワー不足の問題を抱えていた九州飛行機の震電と中島の一八試陸攻・連山をジェット機化した物。

平成の紫電改局地戦闘機

著者:木村譲二(光文社文庫 刊)

平成の紫電改局地戦闘機

終戦間際の昭和20年7月、敵戦爆連合の迎撃に大村基地より上がった第343航空隊が、佐田岬上空で会敵。

F6FやF4Uを相手に熾烈な空戦を展開する中で、戦闘701飛行隊(維新隊)に属する城哲哉中尉区隊の紫電改4機が、平成7年にタイムスリップした。

そこで紫電改が戦う相手は、瀋陽 J6となった。